2006年02月25日

ファミリー   7

大阪にある総合病院の精神科病棟の一室で、恵子はぼんやりとうつろな目をして、横たわっていた。
「恵子、心配したよ。具合はどう。」と呼びかけると、
「頭がぼやけてる。  佐恵子、来てくれたのね。」とゆっくりと答えてくれた。
布団から差し出した恵子の手は、白く、冷たく、骨と皮だけになってしまって、握り返す力も弱々しかった。
「恵子、心が風邪をひいたのね。ゆっくり休めばまた元気になれるよ。」
「うん。今は、薬で頭がぼやけていて、何も考えられない。」と言う。
もうすぐお雛様。私はお菓子屋で見つけた、ひなあられの入ったお雛様を恵子のベッドの傍へ置いた。
「かわいいでしょ。桜餅も買ってきたのよ。食べてね。」
「うん。うん。」恵子は少し微笑んで、お雛様を見ていた。
「明かりをつけましょぼんぼりに お花を上げましょ桃の花 5人囃子の笛太鼓 今日は楽しいひな祭り、、、」
私が小さな声で歌うと、恵子もか細い声で歌った。
歌いながら恵子の切れ長の目からすうーと涙が一筋流れていた。そんな彼女がいじらしくて、私はもう一度その冷たい手を握りしめた。

恵子の主人とはその日の夕方、病院の近くの喫茶店で待ち合わせていた。彼女がどんなに苦しんでいたのかを伝えたいと思った。

「佐恵子さん、わざわざお見舞いに来ていただいてありがとう。」そう言うと彼は、深々と頭を下げた。
「恵子はあなたに会えることをとても楽しみにしていました。義母の葬儀の時も本当にお世話になりました。あなたのような親友がいて、恵子は幸せ者です。」
「幸せ者、でしょうか。うつ病になった恵子が、、、。彼女が、あなたのことでどれだけ苦しんでいたか分かっておられますか。」
病院での恵子のうつろなまなざしが頭にやきついて、思わず強い口調になってしまった。
「今日は、佐恵子さんにお話しなければと思って来ました。私は恵子に2年間隠していたことがあります。」
「やはり、浮気なさっていたのね。」つい、気持ちが高ぶって、はっきりと言った。
「浮気、と言われれば、そうなのかもしれません。どちらにしても、恵子に隠し事をして不安や不信を抱かせてしまい、追いつめてしまったことは確かな事ですから。いつか恵子にも話さなければと思ってはいたのですが、家庭を生きがいのように大切にしている彼女を見ると、やはり黙っているべきかなとも思われて。私の話、聞いていただけますか。」
「ええ、恵子のかわりに聞かせていただきます。本当は、ご夫婦で話し合うべきなのだろうけど、今の恵子には無理だから。」
「私も佐恵子さんに聞いていただけると、胸のつかえが少し楽になるような気がします。」

「恵子と結婚して6年目の冬、私の実家へ、学生時代に親しく付き合っていた女性から手紙が届きました。彼女は高校から大学2年頃までの恋人でした。」

posted by 佐恵子 at 21:31| Comment(12) | TrackBack(1) | ファミリー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ああ、またいいところで、、、ずるい!
う〜ん次の展開はありきたりなのか
それとも、思わぬ筋書きか
NHKBSフォーク大全見てたら
すっかり、昔にもどっちゃった。
Posted by ひま at 2006年02月25日 23:43
フォークソングを聞くと、どうして固くなっていた心がほぐされてゆくのでしょう。
私も、家事をほったらかして見ました。
猫の「雪」「地下鉄にのって」、なつかしくて、素敵でした。それに、バックに「中村哲」さんがいて、彼の姿ばかり追いかけてみていました。
「翼をください」も「サルビアの花」もよかったなー。
Posted by 佐恵子 at 2006年02月26日 01:12
僕も心の風邪をひいたことがあります。
結局僕は性格的にいつも何かに不安なので、
薬が効いているのかもわからなくなって
どうせ同じだったらと薬はやめました。
僕はたぶん軽い症状だったということでしょう。
しかし、ひどい状態のときには家からなかなか
外へ出れませんでしたが、ある日勇気を出して
外へ出たときに、お日さまにあたるのが
一番の薬ということを知りました。
ひまさん、僕も明日ビデオでフォーク見ます。
Posted by 流人 at 2006年02月26日 01:19
流人さんへ
私も「うつ」の一人です。
この病気は、すべての人が同じ症状ではありません。
原因も様々です。
拓郎もコンサートで「うつ」だと言っておりました。
ほんとかなあとも思いましたが、人それぞれです。
拓郎の離婚前の深夜ラジオを今改めて聞いて見ると
やはり家庭での悩みがあったのか
かなりの「うつ」状態だったことがわかります。

先日awakakさんが紹介していた瀬戸内寂聴さんの
「孤独を生ききる」という本の中で彼女が
「私は多く傷つき、多く苦しんだ人が好きです。
 挫折感の深い人はその分、愛の深い人になります。」
とおっしゃっております。
私もそのとおりのような気がします。
病気一つせず元気いっぱいにやっている人は
それはそれで幸せなことです。
病気で苦しんでおられる人、悩みを抱えて苦しんで
おられる人、そういう人を見ると、放って置けません。
自分の頭のハエも追えない人間が何を偉そうにと
失笑を買いそうですが、でもそうなんです。

優しさ、思いやりの気持ちがない人間を軽蔑します。
拓郎もアルバム「ともだち」で、思いやりのない人間は
人間のくずだと言ってましたよね。
思いやりから友人関係が生まれると。。。

病気は一生懸命治して、それが治ったら
病気を自分の汚点とせず、ステップにすることが大事
などと、また偉そうなことを言ってしまいました。
Posted by ひま at 2006年02月26日 09:27
流人さん、ひまさんコメントありがとう。
心の病は、見えない傷なので自分でも周りの人からも理解しにくくて、苦しいですね。私は重症の人を本当に見舞ったことがあります。快方に向かうまでには随分時間がかかりましたが、お医者様との信頼関係がしっかりできてきてから、今ではとても元気になれました。
つま恋の抽選結果、来週ですね。皆で元気に出かけられるように、心の健康管理にも努めましょう。
私も元気でいなくっちゃ!
Posted by 佐恵子 at 2006年02月26日 16:07
ひまさん、佐恵子さん、ありがとうございます。
僕は10代の終わりごろまで言語障害にも
苦しみました。楽しいはずの高校時代もかなり
暗い時代でした。たぶん、今の不安症もそのトラウマ
が残っているのだと思います。
しかし、おっしゃるとおり、そのおかげで、
人の痛みがわかるし、拓郎の歌に深く感動できて、
ずっと、ファンでいられたし、人より感動しやすい
心を持つことになったように思います。
弱い心というのも悪くはなかったかもしれないと
思う今日この頃です。
ただ不思議と根が明るい自分がいることも確かです。
Posted by 流人 at 2006年02月26日 23:20
みなさん、同じですね。
僕も調子が悪い時代がありましたが、
何度も言うように、これはゲームだと思って
乗り切りました。
Posted by awakak at 2006年02月28日 20:26
人は強いように見える人も本当は皆、弱い部分を持っているものです。心が弱った時、励まされる歌を知っていること、口ずさむ曲があること、弱さを受け止め、元気付けてくれる仲間がいること。それで、また、明日に向かって走れます。
このブログで、心優しい人に出会えて、沢山の勇気と元気を分けてもらいました。一人々は弱いけど、仲間がいれば先の景色も変わりそうです。
Posted by 佐恵子 at 2006年02月28日 23:05
日曜のNHKスペシャルで「矢沢永吉」のファンのことを放送してたでしょう。全部が全部あのようなわけありのファンでもないとは思いますが、拓郎ファンでも同じだと思います。苦しい時に、支えになってくれる。特別な歌、特別な人間なのです。
ネット仲間の関係はとても危うく儚いかもしれませんが、これも縁です。お互い助け合い、励ましあって行こうじゃありませんか。
って、私が締めてどうする。。。。
Posted by ひま at 2006年02月28日 23:25
私も永ちゃん見ました。
ファンではありませんがみなさんとタオルもって・・・
なにがなんだかわかないけどあれを見てると
あの中に入ってワーワーやりたい心境にになります。
若い気持ちが残っているんですね。

「落陽」があるから・・
それは未開発のアフリカ人が歌って踊るのと似てますね。
またはサッカーのサポーターとような

佐恵子さん小説楽しみ読んでます。
きっと恵子さんはこれから強い母親・女性になってゆくと思います。
勝手な想像なんですが・・
そういかないのが小説かな・
Posted by たえこ at 2006年03月02日 18:27
たえこさんの予想、当たっているかも。
ところで、つま恋の当選メール届きましたか。
私は今朝からドキドキして、待っていました。当選のメールが来て、思わず手を叩いて喜んでしまいました。
拓郎さんに会えることも、またファンの人達に会えるのも楽しみです。9月23日、つま恋にはどんな風が吹くのでしょうか。落陽は見えるでしょうか。流星はきらめくでしょうか。
Posted by 佐恵子 at 2006年03月02日 23:38
当選メール届きました。
ほっとしました。
これで、秋にも拓郎に逢える、声が聴ける。
それだけで、心にあったかい灯火が。
75年は夕陽ははじまってすぐだったな、確か。
今年、夕陽が落ちるときに「落陽」を
歌ってほしいな。
そして、星空の中での「流星」も。
拓郎自身が大阪で涙した「サマータイムブルース・・」歌うだろうか「ペニーレーン・・」
ああ、きりがないですね。
Posted by 流人 at 2006年03月03日 10:39
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック

拓郎&かぐや姫inつま恋2006〜当選メール
Excerpt: 「つま恋」当選メールが届きましたね! 息子名でも申し込みましたから、これで8枚ゲットです。 具体的なチケット購入方法は書いてありませんでしたから 郵便を待ってということに??
Weblog: Webフォーク村ブログ
Tracked: 2006-03-03 21:04

広告


この広告は60日以上更新がないブログに表示がされております。

以下のいずれかの方法で非表示にすることが可能です。

・記事の投稿、編集をおこなう
・マイブログの【設定】 > 【広告設定】 より、「60日間更新が無い場合」 の 「広告を表示しない」にチェックを入れて保存する。