2006年03月04日

ファミリー   8

「私の話が真実だと、佐恵子さんに分かっていただくためには、この手紙を読んでいただくのが一番だと思い、持って来ました。読んでいただけますか。」白い封筒には青いインクで、小川加奈子と宛名が書いてあった。
「あなたに来たお手紙を私なんかが読んでいいのでしょうか。大切な思い出の方なのでしょう。」と私が言うと
「佐恵子さんには、読んでいただきたいのです。それに、手紙の差出人は、もうこの世にはおりません。」

 
 隆也様、突然こんなお手紙を出してしまうことを許してください。
若かった時のあなたとの楽しい思い出だけで、充分なはずなのに。優しくしてくださったあなたの前から急にいなくなった私のことなど、忘れられているだろうに。病院のベットの上で暮らしている私は、残された時間を自分のためだけに過ごしたくなったのです。ただ読んでいただけるだけでいいのです。
 あなたはきっと、結婚もして幸せに暮らしておられると勝手に思い込んでいます。そうであって欲しいから。
 あの頃、父の印刷会社が倒産してしまい、父はお酒におぼれる毎日でした。私が4歳のとき、離婚していたので私達は親一人、子一人の二人っきりの家族でした。男手一つで私を育ててくれた父を見捨てることはできず、多額の借金を抱えた父と一緒に、私は大学を辞めて夜逃げ同然で北九州へ向かいました。
隆也さんにだけは本当のことを話したかった。でも、もう一度会ってしまったらきっと別れられなくなると思いました。私達は一緒に暮らすことを考え始めていたときでしたから。

高校2年生の夏休み、仲間とキャンプへ行ってあなたと出会った。夜の海で二人で遠くまで泳いだ。遠浅の暗い海で初めて口づけをした。あの日からずっと隆也さんのことが好きでした。そして今でも、あの頃の輝くような思い出のなかで私は生きています。それだけが今の私を支えています。

 
 乳房を片方切除しました、2年前に。そして今肺への転移が見つかり、3日後に手術の予定です。
こんなこと、あなたにはなんの関係もないことなのに、本当にごめんなさい。
父の借金もなんとか返済の目処がつき、やっと人並みな生活が送れるようになったというのに、、、。
もう、誰も愛せない、誰にも愛されることもない私。残された時間がどれくらいなのかわからないけれど、一人病院のベッドで思い出されるのは、あなたとの青春の日々ばかり。死への恐怖と、生の恐怖、孤独に耐えられなくなるのです。
「22歳の別れ」二人でよく歌いましたね。あなたには遠い々思い出のはず。
「あなたはあなたのままで 変わらずにいてください そのままで」

自分勝手に隆也さんに手紙を書いたから、頑張って手術受けられそうです。
本当にごめんなさい。そして、ありがとう。

posted by 佐恵子 at 14:18| Comment(9) | TrackBack(0) | ファミリー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
う〜ん、予想もしない展開!
しかし、人は思いもしない余命の短さを知った時
過去の恋人に、手紙を書くだろうか?!
そして、そんな手紙を受け取って
同情?から、昔の女に会うことがあるのだろうか
経験がないから、何とも言えない。
Posted by ひま at 2006年03月04日 20:58
二人の恋は成就しないままに終わっていたから、心のなかでくすぶっていた想いが、お互いの中にいつまでも残っていたのではないでしょうか。
そんなことあるかどうか分からないけど、そんなこともあって欲しいという私の願望です。
若い日の傷をいつまでも引きずっていた、私だったから、そう思いたいのかもしれません。
Posted by 佐恵子 at 2006年03月04日 22:26
う〜ん
奥さんの立場からすると寛大にとはいかないでしょう。
恵子さんは若すぎる・・
なるべくしてなった。というそれぞれの状況の様に思います。
3人がそこを乗り越えないと3人のこれからの先は見えてこないのでは・・
でもやはり恵子さんが病気になるくらい苦しんでかわいそうです。

や〜佐恵子さん上手い

1ヶ月前パソコンとうとう容量不足で壊れてしまいました。
新しく買いました。
主婦としてはすごく苦しいです。
予算がくるいました。
チッケットとツアー代金なんとかやりくりします。
がんばって働きます。(少しやる気が・・)
体の調子をくずさないようにお互いにね。


















Posted by たえこ at 2006年03月04日 23:09
たえこさん、いつも読んでくださってありがとう。
つま恋で会えたらいいね。
9月23日までにはいろいろなことがあるだろうけど、なんとかやっつけていかなければと思います。
つま恋積み立てもしなくっちゃ!
Posted by 佐恵子 at 2006年03月04日 23:48
引きずっている恋(失恋)は、今でも約2つありますね。私が自分の余命を知った時、彼女らに手紙を書けば会ってくれるだろうか。好き同志のまま別れたのじゃないから、確実にダメだよね。
ところで4月に「つま恋」の下見に行きます。
9月23日ためしに予約状況を見たら、やっぱ満杯ですね!
じらさないで、続きをよませてくれ〜〜〜。
Posted by ひま at 2006年03月05日 11:24
そう来たのですね。
病気になるとは、冬ソナのヨン様を思い出しました。
転移しちゃったのですね。
やばいなあ。
Posted by awakak at 2006年03月05日 20:29
この頃、物語を書けるのは週末だけになってしまいました。なかなか自分ひとりの時間がとれないし、ストーリーを考えるのも時間がかかります。
ゆっくりだけど、続けて行きたいと思います。一番楽しい時間だから。
また読んでね。
Posted by 佐恵子 at 2006年03月05日 21:43
僕も昔の想い出の恋の人に会いたいと
ずっと思っているのですが、行方不明です。
そういう話を女性の友人に話をすると、
「女は現実的よ、あなたのことなんてとっくの
昔に忘れているよ」って言われます。
そうですね。男はいつまでも甘ちゃんなんでしょう。
昔の人に会ってよりを戻そうなんてことは
考えてもいないのです、ただ会いたいだけ。
この物語のポイントは、そこのところをわかって
くれる夫婦関係を築いているかどうかでしょうね。
夫婦だからすべてを話すべきというのではなく、
お互いに一番信頼できる関係かどうかだと思います。
Posted by 流人 at 2006年03月06日 09:46
「とっくの昔に忘れられる」人と、そうでない人がいると私は思います。
心に訴えるものがあった人は、忘れられない人になるのかな。そして感性が似ていた人も。そんな人には、大人になってから、もう一度会ってみたいですね。
Posted by 佐恵子 at 2006年03月06日 22:32
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