2006年04月29日

ファミリー  10

「可奈子は快活で、高校生の頃から目立つ存在でした。
すらりとした背格好で、手も足も長く、体操部で部長もしていました。しなやかで柔軟な体、かわいらしい大きな目元、明るい笑顔が途切れた時にふと見せる寂しそうな横顔。
そんなすべてが男子の中では憧れの的でもありました。そして、その憧れの的を独り占めしてしまった私には、心のどこかに優越感のような気持ちがあったことも確かです。」

「学生時代の気持ちに戻ってしまったのですね。」と私が言うと、
「忘れかけていた可奈子との記憶が、次々に蘇ってきて、、、。小首をかしげて私を覗き込むくせ、何か考え事をする時は唇を親指の爪でなぞること。そんなしぐさをしながら可奈子は私に何か言いたそうな目をしていました。今思えば、自分の父親の借金のことなどを打ち明けようとしていたのかもしれません。私は何も気付かないふりをして自分の楽しみばかりを追いかけていました。
可奈子は泣き言や、ぐちを言わない女でした。母親と幼い頃に別れたせいだったのでしょうか、人に甘えたり、頼ったりすることが苦手でした。周りの人に気配りすることで、自分の存在価値を確かめているようなところがありました。
それでも、私と一緒に寝るときはいつも、私の腕にすがるようにして眠っていました。そんな彼女の心の奥の寂しさを知りながら、私は知らん顔して暮らしていました。
彼女が突然いなくなったときも、何人かの友だちへ聞いてみただけで必死になって探したり、追いかけようとしたりしませんでした。二十歳の私の恋愛ごっこ、同棲ごっこだったのです。」

「その罪滅ぼしのつもりで、何度もお見舞いに行かれてたのですか。」と聞いてみた。
「そんな気持ちもありました。けれど、可奈子の父親からあと1年の命と医者から宣告されていると聞いたこと、そして何度か彼女に会っているうちに見舞っている私の方が、いつの間にか可奈子に元気付けられていたからだと思います。最期まで、生きる希望を失わず、病気に立ち向かっていた彼女の姿を見るたびに励まされたのです。
「もう一度人を愛したい。もう一度、あと一日でいいから隆也と暮らしたい。」と言う可奈子の最期を看取ってやろうと決心したのです。」

「甘えたり、頼ったりしないで頑張って生きてきた可奈子さんが、死を意識した時、とても素直になれたのかもしれませんね。可奈子さんの最期は安らかだったのですか。」と聞く私に、
「全身に転移してしまった病魔の痛みを最大に抑えてもらい、私の手にほっぺたをつけて静に息をひきとりました。余命1年と言われてから、何度か家へ帰ることもできる時期もあり、一年半生きることができました。
可奈子は乳房を失っても、最期まで女でした。私は恵子という妻がいながら、わがままを通してしまいました。」

posted by 佐恵子 at 20:55| Comment(5) | TrackBack(0) | ファミリー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
う〜ん。。。
それが、男として、人間として
正しい選択なのだろうか。。。
逝ってしまう人間をちょっとだけ
幸せにして見送る。
その引き換えに
何の罪も落ち度もない人間を
不幸せにしてしまう。
Posted by ひま at 2006年04月30日 10:07
間違っていると分かっていても、どうしようもなく心が動いてしまうこともあるのではないでしょうか。この頃は、そんな正しくないことも、許せる気持ちになれました。
でも家の主人が毎週のように外泊したら、信頼できなくなって別れたいと思うかもしれません。
たまに仕事で帰ってこれない時は、家事を手抜きできて、自分の時間ができて嬉しいのですけど。
Posted by 佐恵子 at 2006年04月30日 21:01
人を恋する気持ちはとても自然だと
思います。
だけど、愛は瞬間的なものじゃなくて
時間がかかるものだと思います。
何度も苦楽を共に経験しながらできて
いくものじゃないか。
「この人だけはしあわせにしなければ」
と思うのが愛で、
恋はドキドキするけど、愛はとても穏やか
なものだと思います。可奈子さんに恋するのも
自然でいいと思います。ただ恵子さんへの
愛も大事にしないといけません。
Posted by 流人 at 2006年05月01日 00:11
佐恵子さん調子はどうですか。?

流人さん
いい表現ですね。

二人が恵子さん夫が燃え上がってる時なら
こんなことはなかったと思います。
夫婦になるとやはり隙間ができるのは
普通でしょうか?

恵子さんは辛い思いをされ
とても夫のことをこんにゃろー
と思うのですが
死を目の前にしてる可奈子さんのこと
を考える時夫はその手を振り払ったら
夫もきっと一生後悔すると思うのです。

やはり通るべき道だったのでは?
夫婦でも入り込めないところは
あるのではないかと最近は・・

だから妻・母親は日々のことに
振り回されずしっかりした
自分づくりをしとかなくちゃと
思うのです・・・が
なかなかうまくいきません。

夫はなんとなくぼんやり考えてること
私とおなじかなって思えるこの頃
(たとえば子供・いないと変)

佐恵子さん言ってもいいですか?
がんばりましょうね。
Posted by たえこ at 2006年05月01日 18:30
私は少し元気になりました。
物語が書けるようになったし、少し意欲が湧いてきました。
また続きをじっくり考えますね。
感想をコメントしてくださる人がいて嬉しいです。

たえこさん、いつも優しく励ましてくれてありがとう。頑張りすぎずに頑張ります。
Posted by 佐恵子 at 2006年05月01日 23:31
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