2006年05月21日

ファミリー 12

恵子一家は、恵子の母の7回忌にそろって実家へ帰ってきた。
法事の翌日私はお参りに出かけ、彼女の家族に久しぶりに再会した。
高校生になった長男はもう恵子よりもずっと背が高くなり、「おばさん、お久しぶりです。」ときちんと挨拶してくれた。
ご主人の隆也さんは相変わらず温かみのある優しい笑顔で私を迎えてくれた。
「佐恵子さん、いつも恵子がお世話になって。あれから、恵子がとても元気になれたのはあなたがいつも心をかけてくださったおかげです。私は今日大阪へ帰らなければなりませんが、恵子はもう一日こちらにいますので二人でゆっくり過ごしてください。」と言ってくれた。
私はお参りをすませると、恵子を海沿いの温泉のあるホテルへ誘った。穏やかな瀬戸内海の見える露天風呂につかると、心まで緩められ解放されるような気持ちにさせられて、またお互いの打ち明け話がはじまるのだった。

「あれから7年も過ぎたなんて。過ぎてしまえば、あっと言う間だったね。つらいことも多かったけれど、よく乗り越えたよね。」
と言う私に、
「気がつけばお互い40代になったんだよね。私今ね近くのホテルでブライダルのお世話係の仕事を始めたの。着付の仕事に出かけたホテルで、やってみないかと言われて。まだ始めて3ヶ月なんだけど、親族の着付と当日の花嫁さんのお世話係なの。人から頼りにされたり、必要とされることがこんなに嬉しいことだとは思わなかった。緊張感のある毎日だと、病気のことも忘れていられるの。とてもよく眠れるようになったの。」
「そうか、恵子はいつまでも家庭の中だけで幸せを感じられる人かと思っていたけれど、少しずつ自分の世界を広げているんだね。隆也さんが心の広い人だから、うらやましいな。」
「優しくて大らかな人に見えるでしょ。でもね、そうでもないのよ。去年の暮れに結婚して始めての大喧嘩をしたんだから。」
「隆也さんも怒ったりすることがあるのね。」
「そう、結婚してあんなに怒った彼を見たのは始めてだった。
私、職場の人たちに誘われて、10人で食事に行ったの。
主人は「楽しんでおいで。」と言ってくれたからその後のカラオケも付き合って帰りが12時過ぎてしまったの。そしたらすごく機嫌悪くなっていて「なんで連絡もせんで、こんなに遅くまで遊ぶんや。」と言って怒っていたの。私少し酔っていたからか今まで思っていたことをつい言ってしまったの。「あなただって私に何も言わないで、他の人に会いに行っていたじゃないの。」って。
それから私達、3日くらいかけてこれまで思っていたことのすべてを話し合ったの。主人はどこかいつも、うつの私を気遣って遠慮していたから、優しすぎたから、本音でぶつかり合うことができなかったんだと思う。私はいつも心のどこかに、彼が亡くなったあの人のことをいつまでも忘れないでいるんだろうと不安だった。でもね、心をぶつけ合ったらやっとお互いの気持ちを本当に分かり合えたのよ。
主人はあの人、可奈子さんにできるだけのことをしたから、最期を看取ることができたから彼女に対する心残りは全くなく、もうお墓参りにも出かけることもないのだと言ってくれたの。そして、自分の知らない人たちと私がお酒を飲んだり、食事をしたりすることは本当は面白くないのだとも言っていた。なんだか主人のやきもちが私、少しうれしかった。いつも夫婦なのに私は彼に片思いしているような感じだったから、少しは愛されているのかなと思えたの。ただの独占欲かもしれないけど、それでもうれしかったのよ。私が一生懸命してきたことが、主人への気持ちが、伝わったような気持ちで。全てを吐き出すことは、とても怖いことでもあったけれど、分かり合えたことでまたこれから先も夫婦をしていけそうよ。」

「夫婦が空気のようなあたりまえの存在になるには、とても時間がかかるけれど、夫の本音や弱音を愛おしいと思える私は幸せと言えるのかな。所詮は他人の二人なら、お互いの世界を持ちながら、家庭という二人から始めた世界も大切にしていきたいな。時にはぶつかり合いながらね。」

恵子の笑顔には、少し自信のようなものを感じられ、女のたくましささえも見えたような気がした。

終わり
posted by 佐恵子 at 01:04| Comment(7) | TrackBack(0) | ファミリー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
まあ、男は勝手なもんです。
自分は、職場の付き合いでしょっちゅう
遅くまで飲みに行ってるくせに
また、うっかりすると風俗なども。。。
そのくせ、妻から「今夜友人と飲みに行くから迎えに来て!」なんて頼まれると
表面上は「ああわかった」と言っているけれど
腹の中では、あまりいい感じをもちません。
ましてや12時を過ぎたりすると
「なにやってんだ〜こんな遅くまで」
とむっとしてしまいます。
迎えに行った帰りの車の中でも
つい無口になってしまいます。
心が狭いんですね。
私だけかも知れませんが。。。
Posted by ひま at 2006年05月21日 09:12
ひまさんは、無口になってしまうのですね。家の主人はどなったりもします。でもあんまり放任されるのもなんだか寂しいかもしれません。

ファミリーはとても長い時間がかかってしまいました。書いていて楽しめなかったからかな。苦しみながら書いた物語でした。でも読んでくれる人がいたから、なんとか最期まで書くことができました。ありがとう。
Posted by 佐恵子 at 2006年05月21日 09:56
やっぱり、嫌なことを腹にためるのが
一番よくないということでしょうね。
恵子さんの場合、友達(佐恵子さん)に
いろいろと話ができたことが一番よかった
と思います。友達って大事ですね。
僕は夫婦がお互いを一番の親友と思うのが
理想じゃないかと思っています。
この夫婦はケンカによって、これから先、
いい夫婦になっていくんじゃないかな。
「ファミリー」いいお話でしたよ。
お疲れ様。
Posted by 流人 at 2006年05月21日 22:11
流人さんへ
あなたと奥様は、親友のような関係なのですね。
家はどうでしょうか。主人とは同級生ですが、この頃の彼は私の父のような存在であったりもします。いつまでも恋人というのは難しいですね。
新婚の頃は、主人のこと弟のように感じていたけれど、大人になったなあと最近は少し尊敬したりもします。
読んでいただいてありがとう。
またいつか、物語書けたらいいな。
Posted by 佐恵子 at 2006年05月21日 23:03
佐恵子さんごくろうさまでした。
また書いてね。
最初の頃よりも佐恵子さんの心の奥での
葛藤が伝わってきました。
夫婦喧嘩なんかふつう
怒鳴るのもふつう
うちなんかawakauさんじゃないけど
「出て行け!」じゃなくて「出てけ!」ですから
「は〜お前がでてけ!」と心でつぶやく強い私です。  
(はしたくてすみません。)
まるで漫才みたいですね。
でもいないとお互いに困ることは知ってます。
家族って傷つけあって励ましあうのが普通の家族
って思えば・・?

今仕事上のトラブルで逃げたいけど
正面から立ち向かっていくのに必死なんです。
応援お願いします。


Posted by たえこ at 2006年05月25日 22:03
たえこさん、お疲れ様です。
正面から立ち向かっていくってすごいです。
応援します。
状況は違うでしょうけれど、僕は2年くらい前に、上司に心を痛めつけられて倒れたけれど、
その時が最悪で、そこからだんだんと強くなりつつあると思います。「いつでもやめたるわい」と
開き直ったところから強くなってきたようです。
僕も、今度その上司と仕事することになったら、
立ち向かおうと思います。
頑張りましょう。

♪真実が伝わらぬ世界
 そうさ たえこ 僕も馬鹿な男


Posted by 流人 at 2006年05月25日 22:52
たえこさん、私も応援しています。
私も今立ち向かっているところです。
自分に負けないで、ちゃんと結果を出さなければ認められないから、頑張っています。
私流で、私らしく、やってゆきます。

流人さんと一緒に、フレーフレーたえこ!
Posted by 佐恵子 at 2006年05月25日 23:49
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