2017年03月20日

リンゴ

 本当は、本当はあのころから私達、お互いに認め合っていたんだと思う。
あなたはいつだって合理主義で、無駄なことが嫌いだった。私はどうしてだか、世話好きで意味のないことが好きでね。
それでいつでも話をすれば衝突してしまう。

「どうしてそんなに、生徒会とか委員会とかの活動が好きなんだ。自分のことに一生懸命になってればいいのに、君はお節介がすぎるんだよ。」と、中学生のころには言われたっけ。

そんなあなたが、高校2年生になったとき、「俺たちのバスケット部のマネージャーやる気ないかい。」って言ってきたから、驚いたし、なんだかやけに腹立たしかった。
「私には私のやりたいことがあるのよ。何でもかんでも、人のお世話が好きではないんだから。なんで私があなたのクラブのお世話しなければいけないの。お節介おばさんみたいな私のこと、嫌いだったんでしょ。」と言い返した。

マネージャーは断ったけれど、「ごめんな。そんなつもりじゃなかったんだよ。」と素直にあやまってきたあなたのこと、なんだか気になり始めて、いつの間にかよく話すようになり、一緒に帰るようになり、休みの日には図書館で勉強教えてもらったりするようになって、付き合ってるって感じになったんだよね。

学校で見るあなたは鋭い目で、周りを威嚇するようなポーズでいたね。勉強もバスケも頑張っていたし、部活の友達をとても大切にしていた。

「君は自分のやりたいことがいつもはっきりしていていいね。俺はまだまだ自分で自分がわからなくなることがあるから、なんでも頑張っていないと不安なんだよ。」
そんな本音を私だけに打ち明けてくれたっけ。

あなたは東京の大学に進学し、私は大阪で専門学生になった。お互いに忙しくしていたけれど、時間を作って会うようにした。
硬派なあなたは自分の下宿には私を入れず、デートはいつも映画館や図書館だったね。最終の新幹線の時間まで、駅の喫茶店で時間をつぶして、ホームでさよならをするのが常だった。
けれどある日私が風邪をひいてしまって、帰りの時間が近づいたころには熱が高くなって、しかたなくあなたの下宿に泊めてもらうことにした。熱っぽくなって火照った体をあなたは優しく抱いてくれた。
あなたの部屋には冷蔵庫があったけれど、ほとんど何にも入っていなくて、のどがカラカラになったという私に、実家から送ってきたというリンゴを出してくれた。
リンゴの皮を切らないようにむくんだと慣れない手つきでむいてくれたね。途中で私と交代したけど、あなたの方が上手にできた。
二つに切ったリンゴをかじる。熱っぽい唇を果汁が潤す。唇からリンゴを離して、あなたの唇が私を潤す。
その夜私の熱は上がりっぱなしだった。その後私は熱が下がるまで、あなたの下宿にいたんだっけね。

一つのリンゴで私たちは一つになれた。


同窓会であなたに会って、今の仕事のこと、家族のこととかをお互いに報告した。
「相変わらずやりたいことをやって頑張ってるじゃないか。」と、褒められて、ほかの誰から褒められるよりも嬉しかったこと、きっとあなたは知らないでしょ。

posted by 佐恵子 at 23:15| Comment(0) | TrackBack(0) | short story | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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