2005年09月19日

いつもチンチンに冷えたコーラがそこにあった   その8

霙まじりの冷たい日、就職して1人暮らしを始めていた私は久しぶりに実家へ帰ろうと、電車に乗っていた。途中の駅から乗り込んできた女性に見覚えがあり、目を止めた。遼子のように見えたけど違うようにも思えた。髪をのばしていたせいか、その横顔には覇気がなく、ぼんやりと窓の外を見つめるまなざしは、なにか思いつめているようにも見えた。
電車から降りて、人ごみで見失った彼女を探していたとき、「先輩、ひさしぶり。」と遼子のほうから声をかけてきた。「遼子、何だか疲れてるみたいね。大丈夫。」と言う私の言葉が終わらないうちに、いつものいたずらっぽい瞳からぽろっと涙がこぼれた。「先輩に会いたかった。聞いてもらいたいことがいっぱいあるんです。」と言うので、私の家で話を聞くことにした。私の部屋で熱いミルクティーを飲むと、少し気持ちが落ち着いたのか、涙を拭いてポツリポツリ話を始めた。

「私ギターの彼のこと、今までの誰よりも好きになってしまったみたいで、彼の前に出るといつもの私でいられなくなってしまうんです。私達不思議なくらいに、感性が似ていてあまり何も言わなくてもお互いの気持ちや、感じ方が分かってしまうの。だから二人でいても、いつも言葉が少なくて。   私が想うほど彼は私のこと好きではないことも初めから知っていた。彼の周りにはいつも華やかな女の子がいて、私が独り占めできない人だった。それでも二人になると彼は意外と素朴で古風なところがあって、デートはお寺とか、日本庭園だとか、海の見える公園とか。ロックバンドの人気者だったけど、心は疲れていたのかもしれない。
「遼子といると、自分を取り戻せるよ。」と言ってくれて、私は彼の腕の中でうっとりと夢見心地になれる時間がうれしかった。けれど抱きしめられても々、彼の心は私一人だけに向いてはいなくて、風のようにスーと通り抜けていってしまう頼りなさを感じていたの。
一年半くらい付き合ってきて、ここ二、三ヶ月はデートの回数が少なくなって、この頃は連絡も取れにくくなって、会いたくても会えない日が続いていた。私は返事が来るはずもない手紙を何度も出した。時には手作りのお菓子なんかも送ったりした。まるで「赤シャツ君」状態だなーと思いながら。」
「そうか、遼子もつらい恋をしていたんだね。でもどうしてそんな人好きになるんだろうね。」
「わからないけど、彼の光と影のギャップが私にはとても魅力的だったの。決して優しくもないし、男らしさも感じられないんだけど。彼と会っていると、なんだか雲の上を歩いているみたいな気分になれたんだ。」

「それから、どうしても彼に会いたくて突然アパートを訪ねたの。それまでも何度か行ったことあって、2回だけ泊まったこともあった。彼は「よく来たね。」と言って私を中に入れてくれた。日曜日の朝で、まだ眠そうだった。「私のこともうきらいになったの。」と聞くはずだったのに、彼の顔を見ると何も言えなくなってしまって、コーヒーを入れようとしてたら、おそろいのカップを見つけてしまって。それでも何も聞けなくて、彼が私の手を引き寄せたから、そのまま流されてしまった。でも帰るときに、「俺大切にしている人がいるんだ。ごめんな。遼子は俺がいなくても、大丈夫だろ。男友達もいるし。」と言ったの。私ショックだった。そんなふうに思われていたなんて。」
「それから、どうやって家まで帰ったのか覚えていない。一時間乗っていた電車の中で、涙が止まらなかったこと以外。あの日から一週間、この頃はどうしたらきれいに死ねるかとか、考えていたんです。」


    つづく
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